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ENCYCLOPEDIA FAÇADISM

FAÇADISMと外骨格

これまで、ロンドンの街を構成する建築の新陳代謝の激しさについて耳にすることはあったが、スレード美術学校のアーティスト・イン・レジデンス滞在期間中、街中を散策する中で想像を超えた状況に遭遇した。歴史的建造物が薄皮一枚だけ残され、その背後にそのファサードと全く関係のない新しい建築が建設されていくのだ。建物の構造や内部空間を無視した、保存とは言い難い手法に驚愕すると同時に、その過程に興味を覚えた。そのファサードだけを残す減築プロセスでは、まず、ファサードの薄皮が崩壊しないよう、鉄骨の強靭な構造をファサードの外側から作る。(その表皮を支える構造は外骨格のようであり、構造的にはゴシック建築のフライングバットレスに類似している※。)表皮が構造として固められた後、背後の建築が取り壊される。その後、新築の建築物が背後に建てられ、ファサードと連結され、鉄骨が撤去されるという順番である。その結果、過去は薄皮一枚で保存される。日本ではこのような手法は見たことがなかった。「街の代謝」の特異事例として、最初に目撃して以来、街歩きの際には注意深く観察し、記録を始めた。その結果、1ヶ月の滞在期間中、そのような現場を数カ所目撃することができた。短期間でこの頻度で出会うということは、その総数は案外多いのが容易に想像できる。インターネットなどでロンドンの都市開発などのワードで検索すると類似画像を見つけることができ、この状態を表現する”façadism”という言葉に出会った。現地で見つけたこの現象をまとめた書籍『THE CREEPING PLAGUE OF GHASLY FAÇADISM』の冒頭にはウィリアムモリスのSociety for the Protection of Ancient Buildingの一節が引用されていた。多くの部分によって成立している建築の価値は分割できず、保存するときはその全体をすべきであるという主旨であるが、このデザイン思想の真逆を行くラディカルデザインというべきか。また、この状況を生み出している新築優遇のロンドン付加価値税のあり方など制度的要因についても触れられていた。完成されたファサードと背後の建築との関係は奇怪であり、場合によっては醜悪と言っても良いのかもしれないが、(完全に破壊されるよりは良いのではという考えもあるだろうが、表層を残すから壊しても良いという考えにもなってしまうだろう。)これを仮設的に支える鉄骨とファサードの一時の関係、この鉄骨が露骨に見えている状態が、最も際立ったリアルな状況の表現としてインパクトがあり、美しさを感じたのも確かだった。

図書館の百科事典

スレード美術学校でスタジオに次いで多くの時間を過ごしたのはUCLのメインの図書館であった。大学の知の中心としてのシンボリックで重厚な空間が印象的で、その歴史は1827年に遡る。蔵書も豊富で、24時間利用可能であった。美術書コーナーを利用し、様々なリサーチを行なったが、この図書館にも百科事典置き場がある。そこは閲覧室にもなり、コピー機など機材が置かれているが、当然のことながら今その書架を利用する人はいない。もはや必要がない情報を綴じたそれら無用の長物のエリアは、常に閑散としていた。それらの本棚の表面自体にも興味を持ち、書架や百科事典の撮影を開始した。

百科事典のFAÇADISM

背表紙(建物や町並みで言えばファサード)だけが存在していて、その内側は全く機能も実質的な何かの有用性は持っていない状態だ。この表層的なあり方と建物の表層保存(façadism的なあり方)が重なった。表層、ファサードだけが重用される建築と書籍。その二つの存在をジョイントする構造体をイメージすることができたので、まず、データ上で両者を結びつけたドローイングを制作。これを契機として、鉄骨の外骨格と本の表層の関係をめぐる様々なバリエーションの制作を展開していった。図書館で撮影した書籍や書架の写真をプリントし、それを鉄骨を模したボール紙の構造で保持するなど、薄く自立しない紙をいかに立ち上げるかという物理的な問題をいろいろな方法で解いていった。制作過程で、木工室で出た端材や古書店で購入した辞書も構成素材として付け加えた。結果的に、床面に小さな町のような、様々な状態の小さな構造物が並んだ状態の展示が出来上がったところで、オープンスタジオを迎えた。

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