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 Re-edited town  2021

《再編街》百科事典、接着剤、金具、構造用合板

     

    

《再編​街》

 高度経済成長期、中流家庭のステータスシンボルとして居間の書架に鎮座していた百科事典や全集。ネットが発達した現在、それらは無用の長物以外何物でもなく、廃棄されるか空き家で眠り続けるしかない。私は、その晩年に新たな命を吹き込む。書籍群を再編集し、当時の人が夢見(させられ)ていた公団住宅や美術館などの文化施設を建てる。日に焼け、埃をかぶったテクスチャーは建築物が経てきた時間とほぼ同じ厚みを持つ。劣化した現在の姿は過去の夢見た未来との距離をいかに伝えてくれるだろうか?

RE-EDITED TOWN

Encyclopedias and complete works used to be status symbols for middle-class families during the period of high economic growth, sitting on living-room shelves. Nowadays, with the development of the internet, they have become obsolete and are often discarded or left to collect dust in abandoned homes. I breathe new life into these books in their final years by re-editing them and  construct public housing, museums, and other cultural facilities that people once dreamed of (or were made to dream of) in the past. The sunburnt and dusty textures of these books have almost the same thickness as the time the buildings have passed through. How does the deteriorated present convey the distance from the future that was once envisioned by the past?

百科事典と公団住宅

 

百科事典が家のリビングの一角を占めるようになったのはいつからだろうか?私の実家では1982~3年頃に購入していたはずだ。以来、30冊以上に分冊された事典がガラス戸付きの書架に鎮座していた。しかし、実際に重厚な百科事典を開いた記憶はごくわずかである。子供の頃、ヴィジュアルが面白くて時折見てはいたものの、それを購入した当の大人がどれだけ使っていたのだろうか。大枚叩いて買った割には本棚をただ温め、ガラス越しに背表紙を鑑賞されるだけの存在にすぎなかったのではないか?

いわゆる「百科事典ブーム」は1960年代初頭に始まったという。まず、平凡社が1930年に『大百科事典』で成功し、戦後になって、1955年刊行の『世界大百科事典』全33巻は、約6万セット売れたものの、思うような売り上げではなかったという。しかし、方針を変え、1961年、「一家庭一百科」をキャッチフレーズに刊行を開始した『国民百科事典』全7巻は、予想を大幅に上回り4年間で100万セットを売り上げたという。大卒初任給が約1万6千円だった当時、価格は1万円で、決して安い買い物ではなかったそうだ。その後、他の出版社も競争に参入し、百科事典ブームに発展したというのだ。(※1)このようなブームが背景にあったので多くの家で目撃する機会が多く、また、多くの人の共通の記憶に登場するのも当然のことである。事典の所有自体が中流家庭としての証、ステータスシンボルだったのかもしれない。生活家電がある程度普及した後の次のステップというわけだ。「一家庭一百科」というキャッチフレーズは右肩上がりの経済状態を迎えた日本で、共同体における欲望や同調圧力を起動させるのに充分有効的であったと推察する。

しかし、ブームのはじまりから既に半世紀以上が過ぎ、インターネットが発達した現在、紙の百科事典は無用の長物と化してしまった。ウィキペディア的な知の軽快なネットワーキングに対してなんと重厚な存在なことか。その機能に反比例する質量ゆえに古本屋の古書買取規定でも、百科事典は引き取り対象外となっている場合が多い(※2)。従って、それらの運命は書架でずっと眠り続けるか、廃棄される以外にほぼ残されていない。実際、地域の資源ゴミ回収などの現場や、清掃センターで目撃される場合はとても多い。過ぎ去ってしまった知と教養のスタンダード、ステータスシンボル。

 

一方、公団住宅(※3)は戦後の住まいのスタンダードである。私も非常に短期間ではあったが住んだ記憶がある。4〜5階建ての同一企画の団地が立ち並ぶ通学路沿いの風景は人口増に伴い宅地造成されて建ち並び始めた戸建て住宅とともに、目に焼きついている。それはまた、近年に至るまでどこの土地でも見ることができ、幼少期の風景を思い起こさせるものであった。横須賀、取手、尾道そして旅先のどこかしこでも。建造から半世紀近く経ったその多くは、経年劣化の影響や耐震基準の変化を引き金に取り壊されたものも少なくない。エリアによっては高層のタワーマンションが立ち並んでいる現在、それは完全に過去の標準となったしまったようである。

 

無用の長物と化した百科事典を公団住宅に変形させる。過ぎ去ったもの、過ぎ去ろうとしているもの同士を組み合わせる試みだ。紙の重厚な束で成り立っている事典は彫刻素材としては、とてもボリュームがあり使い出がある。私自身がこれまで収集してきた事典に加え、SNS上で不要となった事典を収集している旨を発信すると、対応してくださる方がいて、制作に必要な数の百科事典が集まった。

事典の日に焼けて色あせ、少し埃をかぶって劣化したテクスチャーは半世紀年の時間の経過を感じさせる。それはちょうど公団住宅が経てきた時間の厚みに近い。そのためなのか、事典のテクスチャーは公団住宅と親和性が極めて高く模型を作るときに独特のリアリティが発生する。それは過去の夢や計画の劣化した現在形である。

 

※1 ジャパンナレッジニッポン書物遺産より

https://japanknowledge.com/articles/blogheritage/nip/2.html

 

※2 ブックオフ買取対象商品詳しい買取基準の中に、3年以内発行を除いて売ることができないと記載。 

https://www.bookoff.co.jp/sell/books/

 

※3 戦後の住宅不足を解消するため、1955年7月に日本住宅公団が設立。1956年には賃貸住宅・分譲住宅の第1号が完成。翌年には公団初の市街地住宅をはじめ、大規模団地や郊外でのニュータウンの開発プロジェクトがスタート。1970年代の高度経済成長期に都市部へ人口が集中し、住宅の需要が供給を大きく上回る問題が深刻化。そこで、良好な住宅や宅地の計画的かつ大量の供給に加え、それに伴う公共・交通施設などの整備も含めた大規模な宅地開発に着手。郊外では大規模ニュータウンの開発、都市部ではマンモス団地の建設が進められた。

UR都市機構ウェブサイトより https://www.ur-net.go.jp/jinji/2019/

 Re-edited Apartment 2018

《再編 美術館》百科事典、接着剤 

     

    

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